『Brothers in arms 6』

「桐谷さん……」
  佐山は恥ずかしそうに桐谷を見上げた。上目遣いの眼差しが、やけに色っぽい。
「目を閉じてろ。それぐらい常識だろう」
  桐谷はそう言うと、佐山が何か言い返そうとしている隙に再び唇を重ねた。
  佐山の下唇を甘噛みしながらも桐谷の手は、器用に服の裾を手繰り寄せている。
  最初、佐山はされるがままに口付けを交わしていた。しかしそのうちに桐谷の手がシャツの裾から中へと侵入してくると、佐山は両手を突っぱねてささやかな抵抗をし始めた。
「ぅ……んっ……」
  鼻にかかった声が洩れる。嫌がっているのか、それともよがっているのか判別がつかないほど曖昧な佐山の声と態度に、桐谷は苛立ち、更に深く唇を合わせた。
  桐谷が強引に唇をこじ開け舌を差し込むと、佐山の喉の奥から獣じみた呻き声が洩れた。そのまま舌で佐山の口腔内を犯していく。歯列をなぞり、逃げを打つ佐山の舌を思いきり吸った。



  こんなことを望んだわけではない。
  こんな……こんな、力で抑えつけられて交わすような口付けを、佐山は求めてはいなかった。
  突っぱねる腕に力をこめると佐山は、桐谷を突き飛ばした。
「やめてください、桐谷さん。僕は……」
  まっすぐに桐谷を見つめると、恐ろしいまでに残酷な獣の目が、佐山を睨みつけていた。
「今更、だろう? こんなことをする気はなかったのだと言うのなら、今すぐここを出ていけばいい。ケツの青いガキじゃあるまいし、それぐらいのことは自分で決められるだろう」
  飢えた肉食獣のようにぎらぎらと光る目で桐谷は、佐山を凝視している。
  逃げられないと、佐山は思った。
  桐谷に言葉ではっきりと告げてはいなくとも、心の中で佐山は、桐谷の腕に抱きしめられたいと思ってしまった。一度……たったの一度だけだったが、それでも彼の腕の温もりを求めてしまった以上は、佐山にも非があるかもしれない。おそらくそのたった一度の思いが、それと気付かぬうちに態度に現れてしまったのだろう。
「……今日は帰ります。二人ともどうかしているんだ」
  そう告げると佐山はそそくさと身なりを整えた。桐谷の腕から逃げられるとは思っていなかった。
  だが、佐山にはこうすることしか出来なかった。



  桐谷は、ドアににじり寄ろうとした佐山の腕を強く引き寄せた。
  咄嗟のことによろめいた佐山の身体が、桐谷の胸の中に飛び込んでくる。
「あっ……桐谷さ……」
  怯えたように見上げる佐山の眼差しが、酷く艶かしい。
  すかさず唇を合わせた桐谷は、無理に自分の唾液を佐山の口に流し込んだ。
  こく、と喉を鳴らして佐山は自噴の唾液と混じった桐谷の唾液を飲んだ。飲みきれなかった唾液は、口の端からたらりと垂れて、佐山の胸元へと消えていった。
「お前にも責任があるんだぞ。恨むなら自分を恨めよ」
  ぽそりと呟くと、桐谷は勢いよく佐山の服をボタンごと引き千切り、はだけさせた。
  弾けたボタンは四方に飛び散り、軽い音を立ながら床に転がり落ちた。気に入りのシャツだったのにと、佐山はぼんやりと思った。
「…はっ、ぁ……」
  桐谷はそのまま、佐山のシャツを大きく左右に開いて胸を晒した。脆弱な身体付きの佐山の胸の突起に口付けると、歯を立てて甘噛みする。
「ん…んっ……」
  剥ぎ取った佐山のシャツが、桐谷の手によって床に落とされた。
  パサリ、と布の落ちる音がする。
「初めてにしては嫌がらないな」
  と、桐谷は指で片方の乳首をきゅっと摘み上げた。そうしながらも、太腿と膝とで佐山の股間を刺激していく。
「あぅっ……」
  つねられ、撫でさすられた佐山の乳首がつん、と勃ち上がるのを見た桐谷は、鼻先で笑った。
「気持ちいいみたいだな、ここと……それから、ここも」
  そう言うと桐谷は佐山の股間に手をやり、固くなりかけていた性器をぐっ、と掴んだ。



  床の上で佐山は桐谷に抱かれた。
  布地の上から掴まれただけで性器を固くしてしまった佐山は、そのままその場に座り込んでしまった。腰が抜けたかのように足が立たなくなり、逃げることも出来ず、へたり込んでしまったのだ。
  この場所から逃げなければ、桐谷の部屋を後にしなければと思うのだが、佐山の身体は指一本として言うことを聞いてくれようとしない。それどころか、桐谷の愛撫に反応するごとに、頭の中が真っ白になっていく。
  決して、合意の上での行為ではない。
  それなのに身体は素直に反応して、ことごとく佐山の気持ちを裏切っていく。
「駄目だ……こんなの…──」
  床に這いつくばり、腰を高く突き出すような格好を取らされた佐山は頭を左右に振った。心では拒んでいるのに。それでもなおビクビクと震え、先端から白濁した精液を滴らせる自分の身体は、もしかしたら心の奥底ではこうなることを望んでいるのかもしれない。
「犯られたいんだろう、ええ?」
  息を荒げながら、桐谷が耳元で囁いた。
「違うっ!」
  そう言いはしたものの、桐谷の手が股間のものを扱き上げるだけで、佐山の腰はがくがくと揺らいでいる。
「だけど、感じている」
  桐谷に事実を指摘され、佐山はぎり、と唇を噛み締めた。
  頭の中では、逃げ出したい、今すぐにでもここを立ち去りたいと思っている。それなのに佐山の身体は、桐谷の傲慢で冷たい手に、もっと触れてほしいと訴えている。
  噛み締めた唇の端に血が滲み、口の中に鉄臭いこってりとした味が広がりだしても佐山は、桐谷の手に翻弄されていた。勃ち上がった性器の括れを指で締め付け、擦り上げられ、先端はしとどに濡れている。ポタ、ポタ、と時折、音がする。息継ぎの合間に佐山が下を見ると、先走りの汁が床に小さな水溜りを作っていた。
「嫌だ、酷くしないで……」
  息が上がってしまった佐山は、掠れた声で訴えた。
  確かに今の佐山は桐谷の腕の温もりを求めていたが、乱暴に扱われることを望んでいるわけではない。
  しかし桐谷は、佐山のその言葉を笑い飛ばした。
  低く喉の奥で笑うと桐谷は、何の準備もせずに佐山の尻の肉を掴んだ。
「……ぁあっ!」
  佐山は慌てて腰を引こうとした。桐谷の指が申し訳程度に佐山の尻の穴をまさぐり、挿入位置を確かめている。
  途端に、喉の乾きが気になりだした。少し前から喉はカラカラだったが、口の中には飲みこむことを忘れた唾が溜まっていた。ゴクリ、と喉を鳴らして佐山は唾を飲み込んだ。



  桐谷の怒張したものが後孔に押し付けられ、先端に染み出たものをなすりつけられた。
  くちゅくちゅと湿った音がして、その間も佐山は腰を引こうとするのだが、片方の腕で腰をがっしりと固定されていてどうしても逃げられない。そのうちに桐谷の空いているほうの手が前へ回され、やや強引に性器を握りしめられた。
「あっ……」
  亀頭の部分を親指の腹でぐい、と擦り上げられ、佐山の腰が跳ねる。
「力抜いとけよ」
  耳元でそう言われても、どうすればいいのか佐山にはわからない。ただ、首を横に振り、桐谷を拒否するだけが佐山にできる精一杯のことでしかない。
「入れるぞ」
  一言、桐谷はそう言った。
  次の瞬間、ぐい、と桐谷の性器が佐山の中に押し入ってきた。
  狭い肉壁を強引に広げながら、奥へ、奥へと向かって押し進もうとしている。
「ひぃっ……ぅ…ああぁっ……!」
  ピリピリとした痛みが佐山の後孔に走る。そして、腹の中のものがせり上がってくるような、吐き気を伴う異物感。
「大袈裟だな」
  桐谷の冷たい声が聞こえてくる。
  背筋が凍りつきそうに寒かったが、その向こうには奇妙な感覚がある。その奇妙な感覚は、今、佐山の身体の中をゆっくりと駆け巡り始めていた。



(H15.6.26)


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