鬼女 2

  千代は十三歳で初めて、女の血を目にした。
  敗戦直後の夏は、煤けた土地と焼け焦げたにおいがあちこちに充満していた。
  両親は空襲で亡くなり、二人いた兄はそれぞれ戦地でお国のために命を差し出した。一緒に田舎へ疎開していた妹は結核で、幼かった弟も栄養失調で次々と命を落とし、千代だけがなんとか生き延びることができた。
  戦争は終わったが、帰る家のなくなった千代は孤児となった。せめて家族が住んでいた家のあった町で新しい生活を始めたいと単身、疎開先から大阪へ帰ってきた。千代が米兵たちに強姦されたのは、大阪に着いた直後のことだった。
  大阪の駅に着いてすぐに千代は、米兵がジープであちこちを回っているという噂を耳にした。
  噂の大半は、車に乗った米兵たちがキャラメルやチョコレート、ペンなどを車に群がる人々に投げ与えるというものだった。中には消毒の粉薬を持ってきて、ずかずかと土足で家の中に上がりこみ、薬を撒いていくというものもあった。
  噂の真偽はともかく、この時の千代は米兵に対してあまり警戒心を持っていなかった。
  日本は米国に降伏したけれども、庶民の生活はずっとマシになった。何よりも、空襲を怖れて真っ暗な防空壕に隠れる必要がなくなった。死と隣り合わせの日々は過去になったのだ。
  そんな開放感から千代は、人々に注意を払うことを怠った。
  米兵たちはこっそりとジープで千代に近付き、人気のない河原へ千代が向かったのをいいことに、襲いかかってきたのだ。
  白魚のようだと言われた千代の肌よりもまだ白い皮膚の兵士が二人と、真っ黒な肌の兵士が一人。それから、日本人のような顔立ちの兵士が一人。彼らはくちゃくちゃとガムを噛み、わけのわからない片言の日本語で何かまくしたてている。
  千代は、恐くなって逃げ出した。
  走って、走って、走って……途中で草履の鼻緒が切れると、裸足になってその白い足を小石で傷付けながら、米兵から逃げようとした。
  ジープは面白がるように千代を追い詰めた。肉食動物が草食動物を狩る時のように、執拗に追い回し、少しずつ傷付けて弱らせていった。
  ジープに追い回され、息も切れ切れになって千代が荒い息で地面に座り込む頃になってようやく、米兵たちは車から降りてきた。彼らはにやにやと厭らしい含み笑いを交わしながら、舐めるような眼差しで千代を見下ろしている。
  千代は後退ろうとして、自分のすぐ後ろにも米兵がいることに気付いた。
  小柄な千代よりも倍ほどもありそうな体格の男に腕を掴まれ、羽交い締めにされる。身を捩って逃れようとすると、別の男が千代の頬を何度か張り倒した。痛みで千代は頭がぼーっとなり、同時に理不尽な暴力に怯えた。千代は男たちに逆らわずに大人しくしようと心に決めた。何をされても、人形のように大人しくしていよう。そうすれば、すぐに解放される。自由になることができる、と……。
  男たちはまず、千代が着ていた着物を剥ぎ取った。母の形見の着物だったが、袖を千切られ、帯は踏みにじられ、地面にうち捨てられた。
  月のものが下りてきても平気なようにとしていた股あてが男の無骨な手でもぎ取られると、赤い血がだらだらと股の間を伝い落ちた。
「……メンスだ。こいつを本物の女にしてやろうぜ、俺たちの手で」
  日本人風の兵士が言った。訛りのある日本語に、千代ははっと顔を上げて男を見た。
「残念だが、俺はハーフ……アメリカ人と日本人のあいのこなんだよ」
  男はそう言うと千代を四つん這いの格好で地面に這いつくばらせた。
「さあ、最初は誰が犯る?」
  男の言葉に、黒人兵がズボンを半分ずり降ろした格好で、千代の膣に一物を突っ込んだ。まだ若い千代の処女膜は甲高い悲鳴と共に引き裂かれた。
「ああああぁぁ……痛い、痛い、痛い……!」
  千代は泣いて痛がったが、誰も、その行為を止めようとはしなかった。
  白人の太くて生白い竿が顔の前に突き出され、千代が戸惑っているうちに誰かが彼女の髪を掴み上げた。反射的に千代が口を開けると、すかさず青臭い竿が口の中に押し込まれ、ぐいぐい喉の奥をかき混ぜようとした。
「…んっ、ぐぅ……っつっ…ん、ぅん……」
  下半身のほうでは、入っていたものがずるりと千代の中から抜き出され、別の誰かの一物がすぐさま入ってきた。今度は、さっきのものよりも柔らかいような気がしたが、やはり中で前後に激しく動かされると鈍痛を伴った。
  口の中に突っ込まれたものが固くなり、大きさがさらに増してきたころに、先端から灰汁のような苦い汁が千代の口の中に広がり始めた。飲み下すまいと必死になって舌で口の中のものを外に押しやろうとしたが、逆に髪を引っ掴まれ、顔を押さえつけられてしまった。
「……オウッ……ウゥ……」
  低い唸り声を発して男は、千代の顔に白濁した体液をぶちまけた。
「さて……次は、俺の番だ」
  それまで、少し離れて仲間のすることを見ていた男はゆっくりと千代に近付いてきた。先程、自分はハーフだと言ったあの男だ。
  男は千代の身体を地面の上に仰向けに寝かせると、彼女の股の間にゆっくりと腰を沈めた。
「あぅっ……うっ……」
  痛みに顔をしかめながら、千代は男の竿を体内に受け入れた。
  男が腰を前後左右に動かすと、膣全体が激しく痛んだ。早く終わってほしい。これは夢なんだと思いたい……千代はぎゅっと目を閉じた。透明な涙が一筋、頬を伝い落ちた。
「あぁ……いい、気持ちいい……」
  男は放心したように呟きながら、先端だけを中に残して竿をずるりと千代の膣から引き摺り出す。千代の月経の血が男の竿の先端に溜まって錘となり、膣の締め付けに似た感触を与えた。男はぐちゅぐちゅと竿を抜き差しした。淫猥な音が静まり返った河原に響き、その中で男たちは長い間、荒い息と湿った腰遣いとを奏でていた。



  我に返った千代は、びくりと身体を震わせる。
「伸太郎兄さん……いけません、伸太郎兄さん」
  千代は腕を突っぱねて伸太郎から離れようとしたが、腕力で男に叶うはずもなく、呆気なく床の上に組み伏されてしまっていた。
「千代。優しくするよ、約束する。お前を壊さないように、大切に大切に扱うと誓うよ」
  伸太郎はそっと千代の耳元に囁いた。
  千代はぎゅっと目を閉じて、伸太郎の言葉に頷く。伸太郎が好きだという、その想いだけで千代は頷いたのだ。
  恐ろしかった。初めてのときのように、ただ貫かれるだけの痛い行為に、ふつふつと恐怖心が沸き上がってくる。過去の悪夢が今、再び千代の目の前に蘇ろうとしていた。
  そんな千代の心の内など知る由もない伸太郎は、千代の服をするりと脱がした。乳バンドの上から胸の膨らみを唇で味わわれると、千代の体はぴくぴくと震えた。伸太郎は千代の反応に気をよくし、今度は大胆に股間へと指を忍ばせた。パンティの上からそっと肉の割れ目を撫でつけてみる。千代の強ばった身体を解きほぐしていくように、一文字に引き結ばれた唇に角度を変えて何度も口付ける。
「…あ……ふっ……ぁ……」
  伸太郎が唇を離すと、千代の口からは甘い声が洩れた。二人の唾液が絡まって、つーっと糸を引いて互いの唇に透明な滴を散らした。
「千代、お前の××を×××していいかい?」
  伸太郎の言葉に千代は、戸惑った。
  日常、使うことのない隠語を彼は、千代の耳元で囁いたのだ。千代も、若い女ばかりの集まりに参加した時に、男性との経験豊富な女たちからこっそりと教えられていて知っていた言葉だ。頬を赤らめた千代は伸太郎から顔をそらし、小さくこくりと頷いた。
  さっき、花の割れ目を伸太郎に触られた時に電流のようなものが身体中を駆け巡った。それが気持ちよかったということに千代は、驚きを感じていた。もう一度、伸太郎に触られたい。胸を、それから恥ずかしいアノ部分をいじられてみたい。そして、気持ちよくなりたいと思っている自分が、ここに、いる。
「伸太郎兄さん……」
  千代の、催促するような呼びかけで伸太郎は、行為を再開した。



  いつしか千代の膣からは愛液が溢れ出て、股の間には艶めかしい女のにおいが漂っていた。
  伸太郎はゆっくりと舌で膣の入り口を嘗め回し、時々、ぐっと奥のほうへ舌を突っ込んだりもした。
  伸太郎が優しく舌と指とで千代の身体を愛撫すると、千代は苦しそうな声を上げ、切なく身悶えた。
「千代、千代のここはとても綺麗だよ。鮮やかな緋色で、ひくひく動いている。私が指を入れると、中からびらびらの襞が吸い付いてきて、離さない。いやらしい液がいっぱいいっぱい出てきたよ。ほら、私が何もしていないのに、こんなに……──」
  伸太郎は千代の股を掴み、大きく両開きにした。
「やっ……いやぁぁ……」
  千代は両手で顔をおおうと、首を横に何度も振る。
  しかしそうやって伸太郎の行為に恥ずかしさを感じながらも千代は、身体の奥から疼痛にも似た熱い欲望がふつふつと込み上げてきていることに気付いていた。
  このままだと、おかしくなってしまいそうだった。
「千代……千代、この格好でおしっこしてごらん」
  不意に伸太郎が千代から体を離して、言った。
「えっ……そ、そんな……」
  伸太郎は千代の膝の裏を持つとくい、と足を宙へ突き上げさせた。
「あぁっ……いや、やめて……恥ずかしいっ……」
  千代は小指を噛んで、いやいやをする。その仕草が伸太郎には酷く艶めかしく見え、まるで彼を煽っているかのように思われた。
「いいからおしっこをしなさい、千代。ちゃんと見ていてあげるから」
  そう言って、伸太郎の指は膣の上にある小さな突起をきゅっと摘み上げる。
「…あっ!」
  びくんと身体を震わせた千代は、咄嗟に伸太郎の手を掴もうとした。
「こっちかな……それとも、こっちを触るとおしっこがしたくなるのかな?」
  伸太郎の指遣いは、千代の思考力をゆっくりと奪い取っていく。
  指と舌とで弄ばれ、言葉で優しく嬲られ、千代は次第に快楽の波に飲みこまれてしまいそうだ。このままでは、何もかも伸太郎の言いなりになってしまう……
「や……いやっ…いやいや、だめ……ぁあ……!」
  突然、ちょろちょろと透明な液体が千代の尿道から溢れ出した。我慢していたものが溢れ出す瞬間の解放感と、罪悪感とが千代の胸の中でせめぎ合う。
  恐ろしさ以上に、羞恥心のほうが勝っている。そしてそれ以上に、伸太郎にもっと気持ちよくてほしいという切なる願いが、千代の中に生まれつつあった。
「ああ、いいにおいだ。千代のおしっこは透明だね」
  そう言うと伸太郎は千代の股間に顔を埋め、その液体をごくごくと飲み干す。
「おいしいよ、千代。すごくおいしいよ。」
  千代は股間を晒け出したまま、放心してしまったようにぼんやりと宙を見つめていた。



(H14.3.22)
(H25.7.7改稿)



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ADULT-Novel