新月の晩にイアージュの部族は契りを結ぶ。
『まことの女』を求めて、男同士で肌を合わせる。
俗に言うブラックムーンの儀式だ。
イアージュの部族には、女という生き物はいない。産まれた時から彼らは男で、成長して死が訪れても、生物学的には一生涯男だった。
ただし、第二次性徴の現れる頃に契りを結んだ時にのみ、突然変異で子を宿す者もいた。子を宿す男は、部族の十人に一人とも、二十人に一人とも言われている。子を宿すといっても、女のように腹に生命を抱えるわけではない。イアージュの未来の子らは、宿主にあたる少年たちの精神体に生命を宿す。いわば、寄生虫のような状態で赤子は少年たちに寄生し、孵化と共に宿主の肉体を骨まで喰らい尽くして産まれ出る。
一度の出産で通常、数人から五人の子が産まれた。その中でも子を宿す運命にある者が産まれる確率は一割にも満たないことが多かった。仮に子を宿す者が二人産まれたとしても、成長の過程で彼らはいがみ合い、敵対視し、結局は殺し合う運命にあった。
つまり、同じ宿主から産まれた子の中に、子を宿す運命の者は一人で充分だということだった。
ブラックムーンの儀式は血に始まり、血に終わる。
新月の夜に密かに営まれる、イアージュの部族に伝わる儀式。
儀式は常に生と死を伴い、血なまぐさかった。
イアージュの部族の繁栄のため。
部族が生き延びるための唯一の手段。
ブラックムーンの新月の儀式と呼ばれ、人々は興奮のうちに『まことの女』を捜し出し、犯し、陵辱する。
それでも『まことの女』に選ばれた者は、光栄だと思うだろう。
一族の命運を担う名誉ある役割を果たすため、命を賭して子をなすのだ。
ダジェとリムシーは同じ腹から産まれたイアージュの子だ。
兄弟は他に、ニィゼとカタレ、ゾム、シャイエの四人がいる。
大人たちが言うには、おそらくシャイエがこの兄弟にとっての『まことの女』となるだろうということだった。
確かに──と、ダジェは思う。生まれつきほっそりとした体格は兄弟の中では最も誇張されており、独特の色気を持つシャイエなら、その可能性は高そうだ。誰が見てもシャイエは愛らしく、ブラックムーンの儀式に適任かと思われていた。
おそらく、部族の繁栄のためにシャイエに種を殖え付けるのはいったい誰だろうかと、口に出して言わなくとも誰もが心の中では思っているはずだ。
シャイエは間違いなく『まことの女』だ。
第二次性徴期にさしかかったばかりのダジェは欲望に満ちた眼差しで、この小柄な兄弟をちらちらと盗み見ていた。
「やっぱりあいつが俺たちの『まことの女』なんだろうな」
不意に、リムシーがぽそりと言った。
同じ兄弟でも第二次性徴期を終えかけているリムシーは、子を宿す期待も既に向けられなくなり、成人した大人としての扱いを受け始めていた。
兄弟の中で『まことの女』になる可能性を秘めた者は、シャイエとカタレ、それから、あまり考えられないことだったが、ダジェの三人だ。ニィゼもゾムも、リムシーと同じ時期に第二次性徴期が訪れ、既に成人している。
カタレはシャイエの次に小柄で、シャイエ以外に『まことの女』になることができるのは彼かもしれないと皆は思っている。だけど、第二次性徴期が始まるよりもずっと前からカタレがニィゼと契りを結んでいることをリムシーもダジェも知っていた。もしもカタレが『まことの女』になるならば、子は、ニィゼの血を引く子になる確率が高いはずだ。
「オレは、自分以外が『まことの女』になるなら誰だっていいさ」
言いながらダジェは、自分の目がシャイエに釘付けになっていることに気付いていた。
あの、すらりとした青白い肢体。淡い光の鱗粉を纏ったかのようなあの身体を、蹂躪してみたいとダジェは思っている。つい先日、第二次性徴期の先触れがあった時から、ずっと。
「お前、シャイエと契りたいのか?」
リムシーに尋ねられ、ダジェは勢いよく頷いた。
「当たり前だ、イアージュの民なら誰だってそうだろう。お前、犯りたくないのか、シャイエを」
ダジェがそう問いかけると、リムシーは困ったような、何とも言えないような表情を浮かべて押し黙ってしまったのだった。
日を追うごとに強い色香を放ち出したシャイエを巡って、ダジェとゾムが対立を始めた。
つまらない諍いは日常のことになり、殴り合いの喧嘩にまで発展することもしばしばだった。
ニィゼは『まことの女』を巡る争いからは遠ざかり、カタレとの甘い日々をひっそりと送っている。
部族の成人した大人たちはダジェとゾムの戦いを面白がって遠巻きに眺めていたが、ブラックムーンの儀式の夜には、シャイエを巡る争奪戦に加わるつもりでいた。
しかしリムシーは、イアージュの成人の中では儀式に対して最も控え目で、シャイエに興味を示さない変わり者の一人だった。
いや、興味を示さないのではない。ただ単に、別のものに興味が向いているだけだ。
リムシーが興味を示したのはダジェだった。
第二次性徴期が始まったばかりのダジェは、いまだその身体に『まことの女』へと変化を遂げる可能性を秘めていた。
確かにダジェにはシャイエのような妖しい色香はなかったが、まだ少年のその身体から発散される強い雄のにおいが、リムシーを惹きつけてやまなかった。
こんなことはよくあることだとリムシーは、胸の内で呟いた。男だけの部族だから、男同士で恋人同士になることは珍しくも何ともない。自分がまだ幼い頃からダジェにしか興味を示さなかったのは、カタレがニィゼに惹かれたのと同じような理由かもしれない。純粋に自分の好みだったというだけだ。 そして正直なところリムシーにとってシャイエとは、単なる兄弟の一人でしかなかったのだ。
新月の晩がやってきた。
闇の中、手探りでイアージュの大人たちは儀式のための丘へと足を運ぶ。
大人たちに混じってダジェとゾムの姿もあった。
ニィゼとカタレは人目を避けるようにして丘へと向かった。ブラックムーンの儀式に直接参加する気はないらしいが、二人で雰囲気を楽しもうとしているようだった。大人たちの中にもそういう考えの者がいた。それぞれのペアと、儀式を真似て契りを結ぶのだ。
大人たちは、ダジェとゾムが乱闘を始めるのを今か今かと待ち構えている。勝ったほうが、大人たちと戦わなくてはならないのだ。特にダジェは第二次性徴期が始まったばかりとあって、大人たちの興味も少なくはなかった。もしかしたら、ダジェに種を殖え付けることが可能であるかもしれないからだ。
注目の的となっているシャイエはと言えば、薄絹を軽く肩に羽織っただけのほぼ裸体のままの姿で、丘の頂上に据え付けられた輿に座っている。自分を求めてやってくる勝者のため、穢れのない身体で成り行きを見守っている。
シャイエの正面に、少しばかり開けた場所があった。
ブラックムーンの儀式が初めてのダジェは戸惑っていた。どう動けばいいのかわからずにいると、既に儀式を何度かこなしているゾムは見下したような嫌味なにやにや笑いでダジェを開けた場所へと誘い出した。
「『まことの女』、シャイエのために!」
ゾムは高らかに叫ぶと、いきなりダジェに殴り掛かってきた。
二人の戦いの火蓋は、唐突に切って落とされた。
大人たちはぐるりと輪になって二人を取り囲み、どちらかが負けを認めるまではその場から逃げられないように円陣を組むようにして立ちはだかった。
勝者は呆気なく決まった。兄弟の中で一番体格の大きいゾムが、数度のパンチでダジェを地面に沈めてしまったのだ。
あっという間に決着がついてしまったため、大人たちはいささか興ざめしたようだった。が、すぐに誰かがゾムに飛びかかっていき、再び、シャイエを巡る争奪戦に火が点いた。
大人たちの間をごそごそと動き回りながら一部始終を眺めていたリムシーは、ダジェが地面に倒れこむと同時に、その場へ飛び出していた。大人たちよりもうまく立ち回ると、兄弟だからとか何とか理由をつけて、ダジェを丘から少し外れたところへと担いでいった。
儀式の輪から外れた二人の上に、静かな闇と穏やかな風が降り注ぐ。
リムシーは、ダジェの意識が戻るまで彼の側に腰を下ろし、膝を抱えて待つことにした。
ブラックムーンの儀式が進行するにつれて、大人たちのシャイエへの欲望はますます高まっていった。
相手のいる者はそれぞれのペアとそこかしこで非生産的な契りを結び始めていたし、待つことに我慢の出来なくなった者も手近なところにいる仲間の同意を得て同じように未来のない契りを結んだ。
勝ち残った最後の一人が、一番始めにシャイエと契りを結ぶことが出来る。
儀式は、勝ち残った者から順にシャイエを犯し、体内に精液を吐き出すだけの単調な作業へと移っていく。
長い長い時間の果てに、ついにシャイエは勝ち残ったたった一人の男と、初めての契りを結んだ。
男は前戯もそこそこにシャイエの青白い双丘に指をかけ、灼熱の塊と化した肉棒で一気に刺し貫いた。
「あっ……うぅっ!」
ぎゅっと引き結んだ唇から洩れた呻き声さえも、男の欲望を燃えたぎらせるのには充分だった。男は激しく腰を抜き差しし、シャイエの尻は、自らが流した血と男の精液とでべとべとになった。
シャイエは、引き裂かれ、蹂躪される苦痛の中で、誇らしさを感じていた。
自分こそがイアージュの『まことの女』になるのだという思いが、この行為を正当化させ、ブラックムーンの儀式はよりいっそう神聖なものへと昇華することになった。
血と精液とにまみれたシャイエは、明け方、東の空が白んでくる頃まで男たちをその華奢な身に受け止め、犯され続けた。
ダジェが目覚めた時、儀式はまだそんなに進展を見せていなかった。
気付いたダジェはリムシーと一緒に遠目に儀式を眺めていた。
どちらからも口を開こうとはせず、押し黙ったままだ。
男たちの戦いが終わり、シャイエが契りを結ぶ頃には、丘のあちこちから艶めかしい喘ぎ声が二人の耳に届くようになってくる。艶めかしい声と、むせ返るような精液と血のにおいに、ダジェは顔をしかめる。
「ニィゼとカタレも、あの中にいるのかな」
不意に、ダジェは呟いた。
儀式のことを忘れたいと、ダジェは思っていた。
シャイエと契りを結ぶんだとリムシーに大口を叩いていた手前、あっさりとゾムの一撃で気を失ってしまったことが悔しくてならない。
できるだけ儀式のことは考えないようにしようと、ダジェなりに考えて口にした言葉だったのだ。
「あいつらは、丘の反対側にいるはずだよ」
リムシーが低い声で返す。
それからまた、沈黙。
互いの間に流れる、気心の知れた穏やかな空気に混じって、ダジェの苛々とした空気が側にいるリムシーの肌にまで、ぴりぴりと伝わってくる。
「……犯らせろよ」
唐突に、ダジェは言った。
「お前で我慢してやるからさ、犯らせろよ」
リムシーはしばらく押し黙ったままだったが、軽く肩を竦めて、返した。
「俺はシャイエの身代わりか?」
「そうだ。それ以外に何がある?」
ダジェが言うと、リムシーは低く笑った。
「光栄だな。『まことの女』の身代わりにしてもらえるなんて」
ダジェは、契りを結ぶという行為が実際にはどういったものなのかを知らなかった。
ただ、互いが衣服を脱いで裸になって、相手の穴に自分のものを突っ込んで欲望を吐き出せばいいのだと思っていた。
リムシーが黙って服を脱ぎ捨てるのをダジェは、もどかしげに眺めていた。
先に裸になっていたダジェは、何も言わずにリムシーの衣服を引き千切った。勢いよく弾けたボタンが地面に飛び散る微かな音がした。
「お前、誰かを犯ったことがあるか?」
自分よりも背の高いリムシーを地面に押え込んで、ダジェは問いかける。
リムシーは薄ら笑いを浮かべると、ダジェのほうへと手を差し伸べた。
「来いよ、ダジェ。教えてやるから」
ダジェは唇をぺろりと舐めると、リムシーに身体を重ねた。
リムシーは、じっと見ていた。
ダジェが自分に覆い被さってくるのを。
「おい、開けよ、足」
横柄にダジェが言い放つと、リムシーは言われた通りに足を開いた。ダジェは自分よりも大人びた兄弟の膝に手をかけるとその間に膝をつき、がむしゃらに腰を推し進めようとした。
が、残念ながら、前戯もなく潤ってもいないその部分は、ダジェの欲望を受け止めてはくれなかった。
「あれっ……おかしいなぁ……?」
固く閉ざされたリムシーの穴に、ダジェは怪訝そうに首を傾げるばかり。無理矢理押し込むことはできそうだったが、そこまでするのはさすがにダジェも躊躇した。
リムシーはそんなダジェを黙って見つめている。
「──濡らしてからじゃないとできないんだよ」
不意に、リムシーが言った。
「あ、いや、このままでもできることはできるけど、濡らしてからのほうがやり易い」
と、言うが早いかリムシーはダジェを草の上に転がし、体勢を入れ替えた。
「なんでオレが……」
「教えてやるって言っただろ?」
不服でいっぱいのダジェの唇を、リムシーは自らの唇で塞いだ。
湿った音がしていた。
唇を合わせ、舌を絡め合う時の音だ。
ダジェは一心不乱にリムシーの唇に応えた。
リムシーはゆっくりとダジェの口内を舌で探った。歯の裏側を順に舐め、内頬を軽く舌先でつつく。ダジェはそれらに素早く応え、同じようにして返してくる。
「……っん……」
リムシーの唇が去ると、ダジェは鼻にかかった甘い音を放った。
闇の中では互いの様子はよく見えなかったが、ダジェは確かに頬を上気させ、わずかに目元を潤ませているようだ。
「……気持ちいいか?」
耳元で尋ねられ、ダジェはぞくりと身を震わせた。
遊びの一環として、名前も知らない大人の誰かから股間を触られたことはある。ダジェも同じように、シャイエのあそこを触ったことがある。だけど、それ以上のことはしていない。それ以上のことは、どうすればいいのかわからない。
「ここと……ここは?」
リムシーはダジェの首筋から乳首にかけてを舌でそっとなぞり降りた。同時に左手で脇腹のあたりをリムシーの手が触ると、ダジェの体はびくびくと震えた。
「……っ…あっ……!」
じわりと、ダジェの雄の先端部にねばっこい液が滲み出してくる。
「もう感じたのか?」
リムシーはそう言うと素早くダジェの膝の間に身を滑り込ませ、立ち上がりかけた青い雄を口一杯に頬張った。
「やめ……っ……」
ダジェが身を捩ろうとすると、雄の部分はリムシーの口内で擦れて軽い刺激を与えられた。
初めての刺激は、ダジェには強すぎたのかもしれない。
リムシーは、前歯でそっとダジェの雄を噛んでみた。甘苦いものがじんわりと口の中に広がる。ダジェの雄は岸に上がった魚のようにひくつき、リムシーは舌先でその感触を楽しみ、心行くまで味わった。
「あ……んっ、ぅうっ……」
ダジェの手がいつの間にかリムシーの髪をかきむしっていた。優しく愛撫するダジェの手つきがリムシーを更なる欲望の深みへと進ませることになった。
ダジェが絶頂を迎える寸前で、リムシーは顔を上げた。リムシーの唾液と自らの精液とで、ダジェの雄から尻の後ろのほうまではぐっしょりと濡れている。
リムシーは体勢を入れ替えると、ダジェを四つん這いにさせた。
「……なん…で?」
ダジェが掠れた声で、嫌々をする。もっと、リムシーにしゃぶっていてほしかったのに。あのまま、イッてしまいたかったのに。
「もっと気持ちよくしてやるから、少し我慢しろよ」
リムシーはそう言うと、ダジェの後ろの穴に指を這わせる。
ダジェはもう、リムシーの言いなりだった。大人しく四つん這いになると、リムシーの顔の前に尻を突き出す。もっと、気持ちよくなりたかった。今すぐにでも。
リムシーはダジェの尻に手をかけ、割り開いた奥の密やかな部分を舌で丹念になぶってやった。
「あっ……あ、んんっ…う…ぁ……」
とめどなくダジェの口からは切なげな声と唾液が滴り落ちる。
リムシーは散々、ダジェの秘所をいじくりまわしてから指をそっと忍び込ませた。ダジェが辛くないように考慮してのことだ。
「痛くないか、ダジェ?」
リムシーが尋ねると、ダジェは吐息の合間に頷いて、艶めかしい眼差しで彼を見た。
「口……キス、リムシー……」
息を切らした状態のダジェがやっとのことでそれだけを言うと、リムシーは体勢を変えた。
今度はダジェは土の上に仰向けに転がされ、両足は膝のところからリムシーの肩に担ぎ上げられていた。
「少し我慢しろよ」
そう言ってリムシーは、ぐい、と腰を突き出した。
激しい痛みと共に、ダジェの内壁に大きな圧迫感が広がる。
「痛っ……やめっ……リムシー、やめろ!」
暴れようとすると、リムシーはダジェの肩をぐいと掴んで身体を固定してしまった。それからそのままの姿勢でぐいぐいと自らの雄をダジェの中へと押し込んでいく。
痛みを感じながらもダジェは、その向こうに微かな快感が入り交じっていることに気付いていた。
リムシーのあそこがダジェのいいところを擦り上げると、何故だかわからないが自然と声が洩れてしまうのだ。鼻にかかった甘い声で、ダジェは再び鳴き声を上げた。
先程の声以上に更に熱の入ったダジェの声は、闇夜の丘に響き渡った。
ダジェとリムシーは同じ腹から産まれた兄弟だ。
二人は一つになることで、産まれる前に戻ることが出来たのかもしれない。
ダジェは、リムシーと一つになることで、自分が彼に取り込まれてしまったのではないかと思ってしまったほどだ。
リムシーは何度もダジェの中に自分のものを出し入れし、なかなかイかせてはくれなかった。だから結合が深まる瞬間をダジェは心待ちにした。結合した部分が擦れて血が滲んでも、二人は互いを求め、なかなか結合を解こうとはしなかった。
それほどまでにブラックムーンの儀式は激しく、攻撃的なものだった。
そして同時にダジェは、大きな快楽を得ることもできた。
リムシーと契りを結んだダジェは、今はもう、シャイエのことなど眼中にもなかった。
シャイエが『まことの女』になるのなら、勝手になればいい。
そんなことよりも今のダジェに大事なことは、リムシーとの契りの回数だった。
ダジェは毎夜、明け方まででもリムシーと一つになっていたいと思っていた。が、元々が小柄で持久力のないダジェには無理なことだったのか、いつもリムシーがリードを取って強引に終わらされているような状態だった。
一度でいいから、無茶苦茶にしてほしい。
腰が立たなくなるまで貫かれ、激しく揺さぶられてみたいとダジェは思っている。どうせ自分では、『まことの女』になることはできないだろうから。だから、壊れそうなぐらいに突いてもらいたい。『まことの女』に未練はなくても、子を宿してみたいと思い始めていた。
単なる好奇心なのか、それとも、この感情自体が第二次性徴の兆候のひとつなのか、ダジェにはその違いがまったくわからなかった。
突き上げられ、熱い迸りに満たされる瞬間を求めてダジェは、リムシーに寄り添う。
せめて『まことの女』の真似事をして、この気持ちを紛らわせてみたいから。
そう。
いつしかダジェは、たった一つの思いに取り憑かれていた。
──子を孕みたい。
ダジェは、心の中の密かな思いをうまく押し隠していた。
誰にも気付かれることのないように自分を偽り、密かに子を宿す夢を何度も見た。
ブラックムーンの儀式に何度も参加し、その度にリムシーと契り、子が宿らないものかと思ってみたりもした。
そして、いつか……ダジェは、その夢に手が届く日を夢見るようになっていた。
『まことの女』になりたい。
イアージュの未来を、その身に背負いたい。
そんなふうに、心の奥底で願うようになっていた。
新月の夜は、血に始まり、血に終わる。
ブラックムーンの儀式を何度となく経て、ダジェは今、第二次性徴期の真っ只中に差しかかろうとしていた。
『まことの女』になりたい。
その思いは、第二次性徴期の真の証。
ダジェはリムシーを知って、第二次性徴期の変化に目醒めたのだ。
そうして。
イアージュの民は新たな『まことの女』をまた一人、排出することになるだろう。
今はまだ、ほんの準備段階でしかなかったが、『まことの女』は確かにイアージュの民人の中に育っていた。
『まことの女』が誰なのかは、誰もまだ、知らないことだったが。
END
(H12.12.18)
(H24.5.27改稿)
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