甘い囁き・前編

「俺、圭一郎のこと好きだわぁ」
  事務室のドアを開けるなり、朝木はそう言って圭一郎に抱きついていく。
  圭一郎はすかさず身をかわして、答えた。
「今は仕事中だから、また後でね」
  初エッチをした翌朝にはもう、圭一郎はこの状態だった。
  何があったのか朝木にはよく解らなかったが、とにかく、圭一郎が何かを吹っ切ったようだということだけは何とはなしに理解できた。
「ところでさ、本当に部屋探しすんのか?」
  気を取り直して尋ねた途端、圭一郎に軽く睨み付けられてしまった。余計なことは何も言わないでくれと、眼差しが暗に語っている。
  朝木は両手を挙げて降参のポーズを取ると、愛想笑いを口元に浮かべた。
「俺も一緒についてくからさ、そう怒んなよ」
「間に合ってるよ。僕一人で決めるから、放っといてくれ」
  言いながら圭一郎は業者が持ってきたばかりの商品をもう一度、自分一人で点検し、保管棚に詰め込み始める。
  朝木は小さく肩を竦めると、そそくさとその場を退散した。



  藤原圭一郎は二十七歳で、私立杉澤学院の事務職員で、朝木篤志の恋人でもある。
  そう背は低くないのだが童顔の圭一郎と百九十近い身長の朝木とが並ぶと、どうしても圭一郎のほうが幼く見えてしまうようだ。
  一方の朝木篤志は学院の二年生。こわもての大柄少年で、歴代の女性事務職員を次々と退職させたつわものでもある。
  二人は年の瀬も差し迫った十二月に晴れて恋人同士となり、姉と姉の娘と同居中の圭一郎は現在、部屋探しに奔走している最中だった。
  朝木はといえば、そんな圭一郎に密かにやきもきしていたりする。
  部屋探しはいいのだが、自分はどうしてくれるのだろうかという焦りが、ちらちらと見え隠れしている。

  恋人同士+部屋探し=二人の空間?

  そんな甘ったるい考えが朝木の頭の中では渦巻いているのだが、どうやら圭一郎はそうは思っていないようだった。
  それでは、いったい何のための部屋探しなのだろうか。
  そんなことを考えていると、どん、と背中をしたたかに叩かれた。
「よ、朝木篤志。悩み事?」
  教師の有科だった。
  今年から数学を教えている有科は、怖いもの知らずの新米教師だ。一部の生徒から怖がられ、問題児のレッテルを貼られている生徒を相手に対等に渡り合える男として、教職員だけでなく生徒たちからも一目置かれている。
  朝木は、こんな優男のどこがそんなに凄いのだろうかと思いながらも有科をぎろりと上から睨み付け、言った。
「悩みがあってもお前なんかにゃ言わねーよ」
「相談できる相手がいるならそれでいいんだけどね」
  にっこりと、有科は返した。
  この顔で……この、女みたいな顔で腕っ節が強いなんて、朝木は信じたくはなかった。聞くところによると、学生時代には朝木レベルの体格の男が四、五人でかかっていってもせいぜい共倒れがいいところだったらしい。化け物だなと、朝木は思う。杉澤学院の兄弟校に在学していた頃の有科の噂は、いいものも多かったが悪いものも多かった。そういう噂を知っているだけに朝木は、有科と拳を合わせることだけは避けたいものだと常々思っていた。
「そう思ってるのなら、話しかけんなよな」
  苛々と朝木が告げると、
「ま、いいじゃない。たまには俺とも話そうよ」
  と、有科は豪快に笑い飛ばして反対の方向へと立ち去っていったのだった。



  駅前のビジネスホテルに忍び込んだ朝木は、放課後になってすぐに携帯に入ったメールを確認し直す。

  3F  3507

  圭一郎からのメールだった。
  朝木が目的の部屋をノックすると、ドアの近くで待ち構えていたのか、すぐに圭一郎がドアを開けた。
「思ってたよりも早かったね」
  圭一郎が言った。
「急いで来たからな」
  部屋のドアに内側から鍵をかけ、朝木は返す。
「それよりもさ、部屋探しはどうなったんだよ」
  薄っぺらのカバンをポン、と椅子の上に放り上げ、朝木は圭一郎の腕を掴んだ。
「部屋探しは一時中断。それよりも、もっとイイコトしよう」
  朝木の腕を自分の身体に巻きつけ、圭一郎は口元に笑みを浮かべた。
  無邪気で妖しい、微かな笑み。悪巧みをしている時の笑みだ。
「俺はいいけど……」
  と、朝木は圭一郎の頬を両手で包み込み、唇を寄せる。
「いいけど、何?」
  圭一郎の問いかけには答えずに、朝木は唇を甘噛みした。
  二人の逢瀬の場は、いつも駅前のビジネスホテルの一室だった。圭一郎が先に部屋に入り、後から朝木が忍び込む。初エッチからまだ十日ほどしか経っていなかったが、ほぼ毎日、二人は駅前のホテルに転がり込んでいた。
  初めは、男に組み敷かれることに圭一郎が抵抗を示すのではないかと心配していた朝木だった。が、圭一郎はそのことに関しては何も言わなかった。逆に、自分から進んで朝木を誘うような素振りを見せたのだ。
  職場では禁欲的な事務職員に徹している圭一郎だが、放課後になるとがらりと雰囲気は変わった。身体を重ねるまでは見せなかったような表情をすることもあり、朝木はそんな圭一郎に目眩を感じることもあった。
  二人はキスの合間に互いの衣服を脱がし合い、着ていたものをすべて床に落としたところでどちらからともなくベッドに倒れ込んだ。
「な、圭……そろそろ俺のことも、名前で呼ばない?」
  朝木はキスを一つ、首筋に落とす。それから胸元に、指先を。
「いや。呼ばない」
  圭一郎は目を逸らして答える。
「なんでだよ。俺は名前で呼んでるのに」
  と、爪で軽く圭一郎の乳首を引っ掻く。
  圭一郎は小さな甘い声を上げると、頬をほんのりと赤く染めて返した。
「恥ずかしいから、今のままで……」
  朝木はむっとしたが何も言わなかった。そのかわりにじわじわと焦らしながらゆっくりと、深く激しい愛撫を与えることにした。
「それじゃあ、別にいいぜ、今のままで」
  圭一郎の性器に指を絡め、朝木は言った。
「あっ……くふっ……ぅ……」
  乳首の先端を朝木がちろちろと舐めると、圭一郎はびくびくと身体を震わせた。両手で朝木の頭を抱え、優しく髪をかきむしる。
「……朝木…──」
  圭一郎は声をかけると、ゆっくりと身を起こした。そうしながらも朝木の肩に手をかけて軽く押し倒すと、体勢を入れ替える。
  朝木はしばらく圭一郎の好きにさせてやることにした。
  ベッドの上にごろんと仰向けになると、すぐに圭一郎が覆い被さってくる。
  唇に一つ、キス。それから、首筋と、乳首。脇腹のあたりを指でなぞりながら圭一郎は、朝木のそそり立つものに手をかけた。
「圭一郎……?」
  朝木が身を起こしかけるよりも早く、圭一郎は朝木のものをペロリと舐め上げた。口の中に入れることこそしなかったが、先端の割れ目を指でなぞりなから、亀頭の裏側を舌先でねぶりだした。両手で竿を扱く傍らで、先端に唇押し当てたり、亀頭の縁をペロペロと舐めたり、小さな割れ目に舌先をねじ込もうとしたりしている。
  あっという間に朝木の先端に熱くて苦いものが滲み始めると、圭一郎は腹の上へと馬乗りに跨った。
「もういいかな?」
  悪巧みをしている時の表情で、圭一郎が尋く。
「そのままで大丈夫か?」
  朝木が言うのに、圭一郎は目を逸らしながら恥ずかしそうに頷いた。
  ゆっくりと圭一郎は朝木の上に腰を進める。潤っていないその部分に朝木は指をかけて、穴を広げてやった。湿り気を帯びた先端を圭一郎の穴にあてがうと、弧を描くようにして周囲を馴染ませる。
「っ……入れて……入れて、早くっ……」
  腰を揺らめかせて圭一郎が言う。
  朝木は恐々と、しかし一息に腰を突き上げた。
「ああぁっ…!」
  その瞬間、圭一郎は大きく身を反らした。



  ベッドで二回、それからバスタブの縁に掴まって一回、圭一郎はイッた。
  朝木は圭一郎を追い上げるごとに体位を変えた。
  もうそんなに若くないからと告げる圭一郎だったが、それでも甘く掠れた声としなやかな肢体とで朝木の若い欲望を充分に満足させた。
「──…部屋が見つかったんだけど」
  まどろみの中、朝木は圭一郎の声をぼんやりと聞いていた。
「ここから歩いて二十分ほどのところなんだけど、決めかねてるんだ」
  声をあげすぎたせいか、圭一郎の声はまだ少し掠れている。
  寄り添って二人で眠るのも悪くはないと、朝木は頭の隅で考えた。
「なんでだよ?」
  聞いてもいいのだろうかと迷いながら、朝木。
「部屋が……」
  と、圭一郎は困ったように呟く。
「なんだよ、部屋がどうしたんだよ」
  朝木は圭一郎の肩から腕にかけてのラインに指を這わせながら、早く言えよと囁いた。
「うん、それが──有科先生が紹介してくれたアパートなんだけど……」
  圭一郎の言葉に、朝木は嫌なものを感じ取った。
「有科だと? よりにもよって、なんで有科の紹介なんだよ?」
  朝木は顔をしかめると、圭一郎の肩を押して自らの身体の下に敷き込んだ。
「駄目だった?」
  上目遣いに圭一郎は尋き返す。
  うっすらと開いた口元が艶めかしく、朝木は一瞬、はっとした。
「あ……いや、えと、その……」
  しどろもどろになって朝木がまごついていると、圭一郎は小さく笑って手を伸ばしてくる。
「二人でいちゃいちゃするにはちょっとイイかな、と思う部屋だったから、朝木も一緒に引っ越しの手伝いにきてくれないかな……なんて思ってるんだけど」
  そう言って圭一郎は、ぎゅっ、と朝木にしがみついた。
「そりゃ、是非ともお手伝いさせていただきます」
  答えて朝木は、圭一郎に腰を押し付けていく。
  圭一郎はすぐさま朝木の昂ぶりを察知し、この年下の恋人の唇にかぶりついていったのだった。



  いったいなんで、圭一郎が有科なんぞの紹介で部屋を借りることになったのだろうかと、朝木は不思議で仕方がなかった。
  考えれば考えるほど、奇妙に思えてくる。
  確かに聞くところによると有科は地元の人間らしいが、だからといってそう簡単にアパートの斡旋など出来るのだろうか。
  もう少し有科に貫禄でもあれば、納得したかもしれない。
  しかし、どう見ても有科は大学出たての新米教師にしか見えず、朝木には、そんな若造にアパートの斡旋が出来るようには思えなかった。
  圭一郎の話では、台所の他に三部屋ついて、風呂トイレ付き。日当たりもそこそこで、賃貸料も格段に安いのだということだ。
  そんな条件のいい部屋を、有科はどうやって見つけてきたのだろうか。
  そんなことを悶々と考えていたら、寝過ごしてしまった。
  日曜の朝は忙しい。特に、今日は。
  圭一郎が何としても年内に引越しを済ませたいと言い張ったものだから、昨日の今日でいきなり、引越しの手伝いを朝木は言い渡れさていたのだ。
  慌ててベッドから飛び起きると、身支度もそこそこに家を飛び出す。
  八時に待ち合わせの予定だった駅前の噴水広場を目指して走りながら、朝木は携帯で圭一郎に連絡を取る。
  ツー・コールで圭一郎は携帯に出た。
「もしもし?」
  不機嫌そうな圭一郎の声に、朝木は待ち合わせ場所に到着するまでひたすら謝り続けることになった。
  下り坂を駆け抜け、階段を一段飛ばしどころか二段飛ばしで駆け降りて、ぐるりと池の周りを走って待ち合わせ場所が見えてきても、朝木は携帯に向かって謝り続けた。
  噴水の側に立つ圭一郎は、携帯に謝りの言葉をつらつらと吐き続ける朝木をじっと眺めていた。待っている間に朝木の声を聞くことに飽きた圭一郎は、既に携帯をそのままの状態で上着のポケットにしまいこんでいる。ポケットから朝木の声が微かに聞こえるのは、圭一郎には心地好く感じられた。
  早歩きで圭一郎の姿を探しながらも必死になって携帯に謝る朝木の姿は妙に可愛らしかった。圭一郎はポケットから携帯を出すと、素早く囁きかける。
「この寒空の下で二時間も待たされたけど、怒ってないから早く行こう」
  その瞬間、圭一郎の姿を見つけた朝木は携帯越しに言葉を返した。
「……ごめんな、本当に」
  圭一郎は朝木の遅刻を気にする風もなく、目が合うとにっこりと笑い返してきた。それから携帯の通話ボタンをオフにすると上着のポケットに放り込み、言った。
「こっちに車を停めてるんだ」



  圭一郎の車でアパートへと向かう。
  後ろのシートには圭一郎の荷物が所狭しと積みこまれていたが、朝木が予想していたよりも荷物は少なかった。
  だだっ広い道を南へ下ること五分。
  四方に田畑の広がる道の両脇には、ファミレスやら居酒屋やらコンビニやらがずらりと立ち並び、賑やかな雰囲気を醸し出している。
  圭一郎は賑やかな通りを一本脇に逸れ、小さな集合ビルの前で車を停めた。一階に雑貨屋、二階にはろうけつ染めと絵画教室か、そして三階には料理教室が入っている。
「アパートの大家さんに挨拶してくるから、ちょっと待っててくれる?」
  そう言って圭一郎は、一人でさっさと車を降りてしまった。
  待っている間に朝木は、車の中に残された微かな煙草の香りに気付いた。
  普段、圭一郎は煙草を吸わない。しかし、車の中にはかなり強い煙草の臭いが染みついている……いや、そうではない。アッシュトレイに煙草の吸い殻が残っているのだ。偶然にも見つけてしまった煙草の吸い殻は、一本だけ。朝木がこっそりと吸っているような銘柄のものとは違って、どうやら輸入煙草のようだ。
「なんだ、これ……?」
  圭一郎ではないことだけは、はっきりと解る。
  圭一郎は大の嫌煙家だ。普段は口に出しては言わないが、自分の持ち物に煙草の臭いがつくのを酷く嫌がっていたりするのだ、実は。
  以前、朝木は一度だけ圭一郎の前で煙草を吸おうとしたことがある。その時に圭一郎ははっきりと、こう言った。
  煙草を吸うならどうぞ外へ行って下さい、と。
  そのくせ、朝木の体臭と化している煙草の香りはあまり気にしていないようなのだ。朝木の身体から煙草の香りがしていても、圭一郎は何も言わない。明らかにさっきまで煙草を吸っていたと解るような時ですら、圭一郎は平気で朝木に抱きついてくる。妙なところでこだわる嫌煙家の圭一郎だった。
「…お待たせ。後で有科先生も手伝いに来てくれるってさ」
  車に戻った圭一郎は、あっけらかんとした様子でそう告げた。
  手際よくシートベルトをつけると、ハンドルを切りながら圭一郎は言葉を続ける。
「新居になるところってのがすぐそこのアパートなんだけどね、有科先生のご兄弟が大家さんをしてるんだ。上の階に守咲って名前の作家さんが住んでるって聞いたんだけど、知ってる?」
  また、有科の話だ。
  朝木は心の中でむっとしながらも圭一郎の言葉に、尋ねかける。
「作家?」
「うん、僕もよく知らないんだけど、何か有名な作家なんだってさ……」
  エロ作家じゃんか……──と、朝木は心の中で呟く。それもゲイ小説ばかりを扱ったエロ作家だ。かなりいい歳をしたオヤジが書いているという噂だが、それが本当のことかどうかは朝木にもよく解らない。
「朝木、知ってる?」
「え……あ、いや、俺、小説って興味ねーから」
  素知らぬ顔で返しながらも朝木は、どこまでもついてくる有科の名前が気にかかって仕方がなかった。
  そうこうするうちに、目的のアパートに到着した。
  車はややゆっくりめの速度で地下の駐車場へと入っていく。
「マンションぽくないか?」
  朝木が言うのに、圭一郎がちらりと横目で見て返す。
「でも、アパートって聞いてるけど?」
  圭一郎にしてみれば、マンションでもアパートでも、生活を始めることのできる場所であれば何でもいいのだ。あまりあれこれと尋ねると機嫌を損ねそうだと悟った朝木は、「ふぅん」と頷くとそのまま黙り込んだ。
  口を開かなければ、圭一郎の気に障ることを言うこともないだろうから。



  引越しの手伝いはほとんど必要なかった。
  ほとんどの荷物は既に部屋に運び込まれており、今日の予定では衣類やら身の回りの細々としたものだけを運ぶことになっていたからだ。
「なんだ、せっかく張り切って来たのに、手伝い甲斐のない引越しだなぁ」
  ぼやきながら朝木が荷解きをしていると、背後から圭一郎が忍び寄ってきた。
「二時間も遅刻しておいてよく言うよ」
  そう言って圭一郎は、朝木の背中に寄り添い、ぎゅっと抱きついていく。
「二人でゆっくりと引っ越し祝いができるように、ちょっとずつ荷物を運びこんでおいたのに文句言われるなんてな……」
  思わせぶりな口調で、圭一郎。
「えっ……」
  朝木が密かな嬉しさに戸惑っていると、圭一郎は耳元にそっと囁きかけた。
「一段落ついたら、ファミレスにでも行く?」
  圭一郎の言葉は期待外れのものだったが、朝木は勢いよく頷いた。
  今朝は朝食抜きで待ち合わせ場所まで駆けてきたのだ。時間もちょうどいい頃だと、二人は早々に荷解きを切り上げて表へ出た。
  ファミレスは、ここからだと歩いて五分ほどのところになる。他に、和食の店や本屋なども並んでいた。朝木は、自分の家の周辺よりも充実しているなと思った。朝木の家の周辺には、クリーニング屋か昔からある駄菓子屋ぐらいしかない。ちょっとほしいものがあっても、駅前か二つ三つ向こうの駅まで行かなければ手に入らないのだ。
  ファミレスで適当に胃袋が満たされると、今度は別の欲求が頭をもたげ始めた。
  二人で他愛のない会話を交わしながらアパートに戻ると、朝木はこっそりとドアに鍵をかける。
  圭一郎は何も気付いていないようだ。流しのところで台所用品を片付けるのに夢中になっている。
  朝木は後ろから圭一郎をきつく抱き締めると、耳元に口付けた。
「腹ごなしに運動しようぜ、圭……」
  朝木がそう言い、すかさず圭一郎は却下した。
「駄目だよ、朝木……今、忙しいんだから。片付けが全部終わったら考えてあげてもいいけど、今は駄目」
  言いながらも圭一郎は、朝木の手がトレーナーの裾から中へ侵入してくるのを許している。
  朝木はゆっくりと圭一郎の脇腹をなぞりあげ、それから両方の乳首を同時にきゅっと摘まんでやった。
「…ぁっ……」
  流しの縁をぎゅっと掴んで、圭一郎は次々と込み上げてくる声をこらえた。こらえながらも腰が引けて、圭一郎はいつの間にか朝木の昂ぶりに尻を押し付けていた。
「なぁ、このまましてもいい?」
  圭一郎の前へと朝木の手が回る。
  圭一郎は軽く嫌々をしながらも、身体を朝木のほうへと密着させる。
「駄目……鍵が、あいてる……」
  朝木は布地の上からそっと圭一郎のものを撫でつけた。固くなっていたそこを焦らすように掌で扱くと、ぴくぴくと震えるのが感じられた。
「んっっ……」
  圭一郎の鼻にかかった甘い声が、密やかに洩れる。
「鍵ならさっきかけたぜ」
  言いながら朝木は、圭一郎がはいていたジーンズを下着ごと下まで引き降ろした。
「朝木……っ…──」
  圭一郎が言葉を発するよりも先に朝木は行動に移っていた。素早く圭一郎の尻を割り開くと、奥の緋色の部分に舌を這わせた。
「だめ……」
  抗いの言葉を上げながらも圭一郎は進んで身体を開き、朝木の愛撫が感じるところに届くよう、流し台に上半身をもたせかける。
  ゆっくりと、朝木は圭一郎の秘所を潤おしていく。舌で嬲りながら、前のほうへの愛撫も忘れなかった。指先で圭一郎の先端部をじわりと撫でさするうちにじんわりと湿り気を帯びてきた部分に軽く爪を立ててやる。圭一郎の膝がかくかくと頼りなげに震え、両腕で流しの縁にしっかと掴まっている様子は絶景だった。
「…人が、来るから……」
  掠れた声で圭一郎が言った。
  朝木は自分のズボンを下ろすのももどかしげに、性急に圭一郎の後ろに挿入した。
「ぁうっ……」
「わりぃ……キツかった?」
  ぐい、と腰を押し付けて、朝木が尋ねる。
  圭一郎は首を小さく横に振った。それから流しに掴まり直そうとしたのだが、その瞬間、朝木のほうに尻を突き出す形になり、穴がきゅっと締まるのが感じられた。
「んっ…ん……」
  朝木は片腕で圭一郎の腰を掴んで固定した。
「このままイってもいいか?」
  空いているほうの手で圭一郎への愛撫を続ける朝木は、ゆっくりと腰を動かし始めていた。圭一郎はその刺激をこらえながら、ともすれば滑りそうになる手で流しの縁に掴まっている。
「あっっ……や、だめ……」
  圭一郎が見せかけの抵抗を示す。
  してほしいのに。このまま、イきたいのに、形ばかりの抵抗をして、朝木を嬉しがらせているようにも思われた。
  朝木は少し乱暴に腰を揺らした。
  圭一郎の艶めいた声が高く、大きなものになった。
「あああぁっ……」
  朝木がぐい、と腰を引いた。圭一郎の中に入っていたものをぎりぎりまで引きずり出して、再び奥へと突き上げる。
  挿入の瞬間、インターホンが鳴った。
「あっ……はぁっ……」
  圭一郎は慌てて顔を上げ、朝木から身体を離そうとする。両腕を突っぱねて、かくかくとする膝で立とうとする。
「圭……まだ、離さない……」
  そう言って朝木は圭一郎を羽交い締めにし、きつくきつく突き上げた。
「うっ…く……ぅっっ……」
  押し殺した圭一郎の声は、くぐもったものとなった。
  朝木は腰の動きを早めた。更に奥を目指して圭一郎の中へと挿入する。
  太股を伝い落ちた精液は、圭一郎のものから溢れ出した先走りでもあり、中に放たれた朝木のものでもあった。
「嫌…だ……」



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(H13.1.12)
(H24.8.21改稿)



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