『星月夜の果てに 2』

  イサリに親はいない。
  母はくノ一だった。
  里一番の美貌を誇る、両という女だったことはイサリも知っている。
  透き通るような美しい声で、いつもイサリが寝付くまで子守歌を歌ってくれた。
  両はまた、誰よりも強くしなやかな女だった。
  不知火の源伍と呼ばれる中忍とのただ一夜限りの過ちで身籠もった。その子がイサリだと両は言ってもいた。
  源伍に迷惑をかけないように、イサリは両一人の子として生まれてきた。源伍の血を引く子として忍び者になることも出来たが、両はそうはさせなかった。
  出来ることなら忍び者の里から逃げ出したいと、事あるごとに両は呟いていた。
  生まれてきた我が子を忍び者にしたくはないとも、両は言っていた。
  身籠もると同時にくノ一を引退した両は、里から距離を取り、次第に疎遠になっていく。いつか忍び者から足を洗い、普通の生活をしたいという思いを心に秘めていたのかもしれない。
  そうしてイサリが十になった年、両は帰らぬ人となってしまった。
  里からの呼び出しにも応じず、イサリを置いて逃げようとしたのだ。
  後になってイサリは、知らされた。
  両は源伍の手で闇に葬られた、と。
  それ以来イサリは、忍び者の里で暮らしている。
  イサリが生まれた年には隣の領地から略奪されてきた女が多く、そのせいか子供の数も随分と多い。そういった略奪されてきた女たちに出来た子は一定の年齢になると忍び者になるか、忍び者の奴隷となるかどちらかの選択をさせられた。奴隷というのは、忍び者の慰み者になるということだ。男子だろうが女子だろうが関係なく足を開かされ、否が応でも忍び者の相手をさせられる。そんな慰み者として、イサリは里に連れ戻されたのだ。



  イサリがぼんやりと母のことを考えていると、カゲハの手がするりと肩を滑り降りた。
  くい、と頬に手をあてがわれ、横を向かされる。
  あっと思う間もなく、唇を奪われていた。
「んっ……んんっ……」
  カゲハの唇は肉厚で、イサリの何もかもをもぎ取っていくような激しさを持っている。吸い付いてはついばみ、荒々しく腔内を掻き混ぜていくカゲハの舌に、イサリの口から甘い吐息が零れ落ちる。
「……はっ…ぁ……」
  いつの間にかイサリの手はカゲハの着物の肩口をぎゅっと握り締めていた。
  カゲハはその手にそっと自分の手を重ねていく。
  力強い手だと、イサリは思った。
  ごつごつと節くれ立った手。太くてがっしりとしたカゲハの指が、イサリの細く華奢な指に重ね合わさる。
「お前、女みたいだな」
  唇が離れていくと、カゲハは掠れた声で囁いた。
  イサリは恥ずかしそうに顔を伏せることしか出来なかった。奴隷として忍び者たちの慰み者になってきたイサリは、好いた相手にそのことを知られたくなかった。
  せめて、そのことだけは…──イサリは首を横に振ると、小さな声で訴えた。
「わたしが本当に男かどうか、試して……ください」





  土の上にイサリはそっと身体を押し倒された。
  イサリは、カゲハに何もかもを任せきっていた。好いた相手になら、何をされてもいい。どうなってもいい。そんなふうに考えていたのだ。
「華奢だな」
  白いイサリのうなじに舌を這わせながら、カゲハは呟く。
  ビクン、とイサリの身体が跳ね、淡い吐息が洩れた。
「……あ……はぁ…んっ……」
  ざらり、とカゲハの舌が首筋から耳の下へと移動していく。着物の袷からするりと手が入り込んできたかと思うと、胸の突起を探し当てられこねくり回された。太い指が乳首を摘んだり乳輪に添って微かな刺激を与えたりしているかと思うと、爪の先で押し潰しにかかる。イサリは痛みを感じる間もなく、妖しい喘ぎ声を洩らしていた。
「感じやすいんだな、お前」
  口許に笑みを浮かべ、カゲハが言う。
  イサリが恥ずかしがって横を向くと、ぎゅっと手を掴まれ、カゲハの股間へと導かれた。
「…俺も、もうこんなになってる」
  にやりと悪戯めいた笑みを浮かべて、カゲハはイサリを見下ろす。
  着物越しに触れさせられたカゲハのそこは既に固く反り返っていた。
「わたしも……わたしも、カゲハさんが欲しい…──」
  イサリの囁きは口吻に飲み込まれていく。
  カゲハに触れられるごとにイサリの身体は熱を帯び、火照りだす。身体の隅々までカゲハは指先と舌とを使って検分していく。はだけた着物をするりと脱がされ、カゲハに溺れている間にイサリは一糸纏わぬ姿にされていた。
「肌もきめ細かいし、そこらへんの女よりも器量よしだな」
  同い年のカゲハに言われて、イサリはそうだったのかと改めて思い知らされた。年上の忍び者たちに抱かれるたびに、皆が口を揃えて言ったものだ。母親の両に似て、しっとりとしたきめの細かい肌をしている、と。
「んんっ……っ……や…ぁ……!」
  不意にイサリの背が大きくしなった。
  まるで雷に撃たれたような感じがした。何かが身体の中心から隅々へと向けて駆け抜けていく感覚に、イサリは恍惚となって喉をヒクヒクと上下させた。
「なんだ、もうイきたいのか?」
  まだ、大事なところはこれっぽっちも触れられていないのに。それなのにイサリの身体は、もうすっかり力が抜けたようになって骨抜きにされてしまっている。
  こんなことは初めてだ。
  こんな……胸の突起を触られ、唇を吸われたぐらいでイきそうになるなんてことは、これまでなかった。自分よりもずっと年上の、父親どころか祖父ほども歳の離れた男たちに幾度となく抱かれてきたが、それでもイサリはこんなに呆気なく絶頂を極めそうになったことはほとんどない。
  身体の熱を持て余し気味にしているイサリは腰を揺らめかせながら、カゲハを見つめていた。





  真夜中を過ぎた頃、忍び者の里では頭領の耳に下忍のカゲハが奴隷のイサリと共に里から逃げたという話がもたらされた。
  カゲハは下忍だったが、同じ年頃の子供達の中では最も物覚えがよく、早々と仲間をまとめるだけの力を現わし始めていた。里に対する不満はこれまでに一度たりとも表にしたことはなく、また、子供同士によくある性の体験では男の嗜好はなかった。
  そのカゲハが、男のイサリと共に里を抜け出したという。
  いきなりのことに、カゲハをよく知る者たちは何かの間違いではないかと訝しんだほどだ。
  それでもお達しは副頭領の一人から布告され、カゲハとイサリは抜け人として里の者たちから追われることとなった。
  狭い部屋の中に、追っ手として選ばれた者たちがひしめき合う。こもった男の臭いと、汗の臭い。時折ボソボソと交わされる言葉にならない低い声。
  源伍は黙ってそのお達しに耳を傾けていた。
  目を瞑り、じっと身動ぎひとつせずに、ただ黙って部屋に響き渡る副頭領の声に耳を傾けていたのだった。





  イサリはペロリと唇の端を舐めた。
  その仕草が誘っているように見えると、年上の男たちからよく言われていた。
  カゲハもやはりそう思ったのか、パチパチと爆ぜる焚火の色に照らされたイサリの頬に自分の頬をすり寄せていく。
「……中に入れてもいいか?」
  躊躇いがちに尋ねられ、イサリは目を伏せて頷く。
  伏せた瞼に、カゲハの唇が落ちてくる。
「俺は、男は初めてだ。お前、どうするのか知っているか?」
  カゲハの声は、少し震えているようだ。興奮と、戸惑いと……それらを肌で感じ取ったイサリは、目を開けると、手を伸ばしてカゲハの頭をそっと抱いた。
「男の経験はあるから、心配しないで」
  イサリがそう言うと、
「そうか。お前、華奢だからな」
  納得したようにカゲハは頷く。
  男たちの慰み者だったから……という言葉を、イサリは胸の奥底に苦い思いと共に密かに隠し込んだ。





  カゲハの口吻は優しかった。
  男は初めてだが、女となら寝たことはあるとも、カゲハは言った。
  これまでイサリの身体の上を通り過ぎていった男たちの誰よりも優しい手で、カゲハは抱いてくれた。
  よく知りもしない相手なのに、何故だか安心できた。
  着物を脱ぎ捨てたカゲハは、黒い三角の当て布と腰紐だけの褌の上から自分のものをイサリに触らせた。
「……大きい」
  掠れる声で呟いて、イサリは身を起こす。カゲハの顔のほうへ尻を向け、馬乗りになった。
  ごわごわとした布の上からカゲハ自身に触れると、ビクビクと蠢いた。それ自身がカゲハとはまた別個の生き物であるかのように、ドクン、ドクン、と力強く脈打っている。
  イサリが軽く爪を立ててそっと擦り上げると、カゲハは低い呻き声を洩らす。
  その低く切ない声を聞いているうちに、イサリのすでに勃ち上がっている性器からも匂い立つような甘い香りが放たれ始める。
「お前のここは、甘い香りがする」
  そう言うとカゲハは、きゅっ、とイサリの性器を握り締めた。
「あっ……あ、あぁ……カゲハさ…ん……」
  揉み込むように指の腹で玉袋を愛撫され、もう片方の手で竿を扱かれた。あっという間にイサリの腰が砕け落ちそうになる。
「ぁふっ……ぁんっ、は、ふあぁぁ……!」
  岩の狭間にイサリの嬌声が反響し、あちこちからその声が返ってくる。恥ずかしいなどと思っている暇もなく、イサリはかくかくと震える肘に力を入れて布の上からカゲハのものに舌を這わせた。
  じゅわ、と布越しに苦い男の体液が染み出てくる。
  イサリはさらに舌をくねらせ、布を舐める。面白いように染み出してくる青臭い体液には、微かな小水のにおいが混じっている。カゲハのにおいだと思うと、イサリの身体はそれだけで体温が上昇して熱く熱く火照っていく。
  互いに舌と指を使って相手のものを愛撫し合い、高め合っていく。
  そのうちにカゲハは指の先をイサリの菊門にひっかけ、ゆるゆると挿入しだした。
  くい、とカゲハが指を入れると、イサリはきゅっと入り口を窄める。女の穴と違って狭いそこは潤いもなく、カゲハを拒絶するかのように乾いている。
  カゲハの戸惑いを感じたイサリは腰を高く上げ、素早く唾液で濡らした自分の指を菊門へ這わせた。
「くっ……ぅ……」
  ゆっくりと時間をかけてイサリは、自らの指を挿入していく。カゲハは黙ってその様を眺めていた。何度か指を出し入れしているうちに、要領を飲み込んだカゲハが舌で菊門をつついてくる。
「ひぁっ……んっ……」
  逃げを打とうとする腰を片手でぐい、と引き寄せたカゲハは、空いているほうの手で挿入したままのイサリの手を掴んだ。
「やぁ……ん…くっん……」
  カゲハの舌が、挿入したままのイサリの指の隙間から体内へ入り込んでくる。生暖かい生き物の感触がする。イサリは毛穴からどっと汗が噴き出すのを感じた。
「いい眺めだ」
  と、カゲハが低く呟くのが遠くに聞こえる。
  うねうねと動く舌がずるりと菊の穴から出ていくと、次は腕を掴んだ手の番だった。自分の穴に指を挿入したままのイサリの手を、カゲハは出し入れし始めたのだ。
  挿入と、奇妙な排泄感。
  イサリの腸が収縮を繰り返し、胃の辺りにきりきりとした痛みを伝えてくる。カゲハの唾液か、それともイサリの性器から溢れ出した先走りの液が後方へと垂れたせいなのか、指が出し入れされるたびに湿った淫猥な音がくちゅくちゅとあたりに響き渡る。
  自分の指が、自分の尻を犯している。
  出し入れを続ける指はカゲハの指のようにも思えて、イサリは熱い涙を一滴、目の端から伝い落とした。



(H14.10.6)
(H24.3.14加筆修正)



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