真夜中の病院はしんと静まり返って不気味だった。
当直の美奈子は巡回のためにナースステーションを後にすると、ゴム臭いリノリウムの床の上を、なるべく靴の音が響かないようにそっと歩いていく。
暗がりは苦手だったが、これも仕事だからと割り切って、何とか一人きりの巡回にも慣れた。ベテラン仲間入りの五年目のことだ。身に着けたナースの制服と制帽がよく似合う色白美人だと、患者からの声も高い美奈子だ。
暗がりへの恐怖心をふくよかな胸の下にしまい込み、美奈子は巡回を続ける。
美奈子がいちばん苦手としているのは、四階……数時間おきに患者が出入りする、一時病室のあるフロアへの巡回だった。
四階は、四という数字が表している「死」をイメージさせる読みから、この翠明医院では基本的には病室は設置しない方針を取っている。しかし救急車で運ばれてきたものの特に生命に問題のない元気な患者に開き室が出るまでの待機の場として入室してもらったり、延命装置を外して安置室へ行くのを待つばかりとなった元患者のための、一時的な待機用の病室として使用されることも少なくはなかった。
他の階にはあるナースステーションを持たない四階は、談話室を中心に、左右二つの棟が広がる。左側には静まり返った冷たい部屋がずらりと並び、右側には生命力溢れた人間が眠る部屋が並ぶ。 ほんの三十分ほど前にも救急車が到着しており、誰かがこのフロアに運び込まれていることを美奈子は知っていた。
誰か……そう、若い娘だという話をついさっき、聞いたばかりだ。おそらく、右側の棟の一室に運び込まれているはずだ。
フロアの右側をぐるりと巡回し終えた美奈子は、嫌々ではあったがフロアの左側へと足を向ける。
──死人の棟。
心の中でぽつりと呟くと、美奈子は気の進まない様子で歩き始める。
きゅっ、きゅっ、と響くリノリウムの床が、勘に障る。
いちばん奥の部屋の前まで来ると、怪しい呻き声が聞こえてきた。
「あっ……うぅっ……」
誰か、こんな奥の部屋で苦しんでいる患者がいただろうか……一瞬、頭の中で美奈子は考える。
夜勤の引継の時にそういった話は聞いていない。それに、この部屋に患者が入ったという話も、知らない──いや、そうではない。先ほど運び込まれてきた患者のものと思われる新しい名札は、フロアの右側には見あたらなかった。では、ここなのだろうか。ここが、その新しい患者の……部屋?
部屋の入り口脇に名札はかかっているものの、名前は書かれていない。
怪訝そうな表情で美奈子はドアをノックする。
「あの……どなたかいらっしゃいますか? お加減でも悪いのでしょうか?」
声をかけながら二度、三度とノックをすると、ドアの向こうに微かな人影が見えた。
「……誰か、いるの?」
ドアの向こうから、少女のような声が聞こえてきた。
美奈子はほっとして、胸をなで下ろした。返事がなければどうしようかと、心の中では怯えていたのだ。
すぐにドアが開いて、その向こうで長髪の少女が不思議そうな顔をして立っていた。年の頃は十三、四歳ぐらいの、まだあどけない顔立ちの少女だ。
「あなた、誰?」
病院のパジャマは大きすぎるのか、胸元がはだけ、少女の愛らしい果実が覗き見えている。
「わたしは看護婦の東山美奈子よ。夜間の巡回で……」
美奈子が言いかけたその時、少女はぎゅっ、と美奈子にしがみついてきた。
「よかったぁ……あたし、誰もいないのかと思って心配してたのよ……」
美奈子のふくよかな胸に顔を埋め、少女はほっとしたような笑みを浮かべた。
「あたしは、いづみ。えーと……山の中で……えぇと……あの、山の中にいたら、食べ物が何もなくなって、それでお腹が空いちゃって……」
少女は一生懸命に自分のことを話そうとしたが、なかなか言葉がまとまらないようだった。困ったような、それでいて真剣な眼差しで、いづみは自分のことを伝えようとする。
美奈子はそんないづみの髪を優しく撫でつけると、静かに言った。
「心配しなくてもいいわよ、いづみちゃん。朝になったらゆっくりと話を聞いてあげる。それよりも今日はもうお休みなさい。疲れたでしょう?」
美奈子が病室を後にしようとすると、いづみは嫌がって美奈子を引き留めようとした。
巡回の仕事はまだ、残っている。美奈子はやきもきしながらも辛抱強くいづみに言って聞かせた。
「ごめんなさいね、いづみちゃん。仕事中なの、わたし。このままここであなたが寝付くまで側にいてあげられないのよ」
こうしている間にも、患者が緊急コールのブザーを鳴らさないとも限らない。美奈子はいづみがベッドに潜り込むのを見届けてから、静かな声でこう言った。
「個室に入っている患者さんは皆、一人で休んでいるわ。あなたよりも年下の小さな子だって、ここでは一人で寝起きしているのよ。お願いだから、今夜はおとなしく休んでちょうだい。明日になれば、もしかしたら大部屋に移してもらえるかもしれないわ。そうしたら、一人で休むのが怖いだなんてことを口にすることもなくなるわよ」
美奈子の言葉に耳を傾けながらいづみは、彼女の手をそっと握りしめる。ひんやりとしてつるんとしたいづみの手は、人間のものというよりも人形か何かの手のように無機質な感じがした。
小さな子供のようにぎゅっと握ってくるいづみの手に、美奈子はもう一方の手を重ねた。 「さあ。お休みなさい、いづみちゃん」
美奈子がそう言うと、いづみは躊躇いがちに口を開いた。
「じゃあ……じゃあさ、じゃあ、ぐっすりと眠れるように、キスしてくれない?」
いづみの子供らしいその真摯な口調に、美奈子は小さく笑みを浮かべた。
「ええ、いいわよ。額でいい?」
いづみはこくりと頷いた。
美奈子はそっと、いづみの額へと唇を寄せていく。
唇が触れた瞬間……いづみの手が、不意に美奈子の腕をがしりと鷲掴みにした。
気が付くと美奈子は、素っ裸でベッドに横たわっていた。
いづみに腕を掴まれた瞬間、電流のようなものが美奈子の全身を駆け巡り、彼女は気を失った。ほんの一瞬のことだと思うのだが、その間に美奈子は衣服をはぎ取られ、ベッドに横たえられていたのだった。
そしてまたいづみも生まれたままの姿になっていた。豊満な美奈子の肢体を跨いだ少女は、悪戯っぽい眼差しを美奈子に向けてくる。
美奈子の目の前にあるのは、いづみのものである幼い子供のような平坦な尻と、二つの性器。女である美奈子にあるのと同じものと、それから、男性のものである性器があった。
上体を前に屈めたいづみは、シックスナインの姿勢をとると美奈子の股の間に顔を突っ込んだ。滑らかな舌と、可愛らしい鼻の頭が、自分の唾液と美奈子の精液とでべとべとになっている。
「いづみちゃん……っぁっ……」
ベッドに起きあがろうとすると、いづみの舌が美奈子の緋色の小さな突起をやんわりと吸い上げてきた。
「美奈子お姉さん……お姉さんも舐めて、いづみの」
そう言っていづみは、尻をきゅっと美奈子の顔に押しつける。甘酸っぱい微かな香りがつん、と美奈子の鼻をつく。
いづみは顔立ちも体型も十三、四歳程度の幼いものだったが、妙なことに男性器だけは立派だった。陰毛のないつるりとした性器はしかし逞しい男性を思わせるほど立派なもので、いづみの幼い体型はアンバランスなエロティックさを醸し出していた。
「いづみちゃん、あなた……」
言いかけた美奈子の口に、いづみの男性器が突っ込まれた。
「んぐっ……ぅ──」
「早くぅ、美奈子お姉さん。あたし、もう待ってられない」
焦れったそうに身体を捩りながら、いづみは言った。
男のもののような青臭さはなく、見た目以上に滑らかなそれは、出来のいいローターを思わせた。恐る恐る美奈子が舌を這わせると、いづみの喉からくぐもった、嬉しそうな声が洩れ出す。
「あぁっ……美奈子お姉さんっ……」
美奈子の緋色のラヴィアにむしゃぶりついたまま、いづみは腰を激しく振った。
がしがしと男性器が美奈子の口の中で暴れる。口に入りきらないそれは美奈子の喉を激しく突き、甘い液をじゅわり、じゅわりと口の中に撒き散らす。人間の精液らしからぬ味だと、美奈子は思う。何人もの男性と付き合ってきたというわけではなかったが、これまでに一度として男性経験がなかったというわけでもない。付き合って身体の関係を持った相手と比べてみても、いづみの体液はあっさりしている。何というか……そう、非人間的なのだ。
いつの間にか美奈子は、いづみの男性器を夢中になってしゃぶっていた。口からはみ出した分は、指先で優しく爪弾いてやる。そうするといづみは、あられもない声をあげながら腰をさらに激しく振る。美奈子は必死になっていづみを舌と歯と指先とであやしてやらなければならなかった。
いづみの味を堪能した美奈子は、いつの間にか下半身がぼうっと熱くなっていることに気付いた。
まるで、燃えるようだ。
付き合った男たちが欲しいと思ったことはあったが、美奈子の頭の中では常に理性が保たれていた。どんなに相手に溺れようとも、セックスに溺れるような愛し方はしていない。
しかし今の美奈子は、理性が欲望に負けてしまいそうだった。男か女か解らないようなの小娘に、こんなにも感じているだなんて……。
「ぁあ……」
大きく股を開いて、美奈子はベッドに座った。
「見て、いづみちゃん……こんなになっちゃったわ……」
そう言って美奈子は、ぐい、と股間のぬめりをいづみに見えるように突き出してみせる。 いづみはぺろりと舌なめずりをすると、尋ねた。
「いいの? 美奈子お姉さん、いいの?」
美奈子は緋色の肉襞を片手でぐい、と広げると、もう片方の空いている手で、その奥のクレヴァスをまさぐり始めた。
くちゅくちゅという音がして、あっという間に美奈子の襞の奥から甘い香りのする愛液が溢れ出てくる。いづみはごくりと唾を飲み下した。
「美奈子お姉さん……お姉さんっっ!」
震える声でいづみは言った。
「あたし……あたし、もう我慢できないっ!」
そう言うといづみは美奈子の唇にそっと自分の唇を押しつけた。
美奈子のほうから口をうっすらと半開きにすると、待っていたかのようにするりといづみの舌が入り込んでくる。互いに舌を絡め合い、強く吸う。相手の唾液を飲み干してしまいそうな勢いで、いづみは美奈子の口内を貪った。
「んっ……ふ…ぁっ……」
いづみの指先は器用だった。滑らかな掌で美奈子の乳首を転がし、指先で乳輪をなぞっていく。もう片方の手は、美奈子のきゅっと締まった柔らかなヒップをもてあそんでいる。指先で肛門の入り口を軽くつついたり、時折、指の第二間接あたりまでを中へと入れてみたり。美奈子はそのたびに反応し、身体を震わせ、艶やかな声で鳴いた。
「ねえ、美奈子お姉さん。気持ちいいでしょ、ここ」
と、いづみは美奈子の後ろの穴に入れた指をぐい、と鉤状に曲げた。そのままぐりぐりと内壁を引っ掻くと、美奈子は所在なげに足をかくかくとさせた。
「あっ……ひぁぁっ……あ、あ、ぁぁぁっ……!」
内壁越しに別の指で前方のほうを刺激すると、美奈子はさらに焦れったそうに腰をくねらせる。いづみはしばらくそうやって指で美奈子の反応を確かめていた。
「やだぁ……っ……もう……いづみちゃん、もうだめ……挿れてぇっ」
自分よりも外見も体格も幼いいづみにしがみついて、美奈子は叫んだ。
勤務中の清楚な様子からは、今の髪を振り乱したその姿は想像だに出来ない。
「……挿れるわよ、美奈子お姉さん」
いづみはそう言うと美奈子の蜜壷に自らのペニスを押し当て、ぐい、と一気に腰を突き上げた貫かれると同時に、男のものにしては滑らかなものが美奈子の中をぐん、と圧迫する。全部は入りきらず、いづみは腰を前後左右に揺すりながら奥を目指した。
「んっ……くぅっ……」
幼い少女の口から苦しそうな呻き声が洩れる。成人女性の美奈子の中にあってすら、いづみの男性器は大きすぎたようだ。
美奈子は窒口がきゅっ、といづみを締め付けるのを感じた。大きすぎるいづみのそれは、熱く固い、鉄の火掻き棒のようだ。それも、特大の。
「ぁあっ……ひっ…ん、ん…ぁ……」
膣が裂けそうな勢いでいづみは、腰を動かした。がしがしと腰を振ると、それだけで美奈子はひぃひぃとよがって涙を流す。
「やめてぇっ……やめて、もうっ……」
そう言いながらも感じているのか、足をいづみの腰にしっかりと絡めたまま、自らも腰を振っている。
──やっぱり、人間って低俗なんだわ。
心の中でいづみはぽつりと呟くと、腰の動きに激しさとスピードを加えた。いづみの激しいピストン運動に、美奈子は絶え間なく喘ぎ声をあげている。
「はっ、はっ……ぁぁっ……イく……イっちゃうぅぅ──!」
いづみの男性器がぶわり、と一瞬、膨張し……それから、美奈子の子宮を突き破るほどの激しい迸りが溢れ出した。美奈子の中に収まりきらなかった分は、互いの接合部からだらだらと溢れ出て、ベッドにじわりと染みを作っていく。
いづみは射精しながらも、そして射精し終えた後も、しばらくは名残惜しそうに腰を振っていた。
いづみの迸りを受けた美奈子は、ぐったりとして気を失っていた。イくと同時に果てたようだ。
「つまんないの。もう、おしまい?」
呟いていづみは、美奈子の中から自身を抜き出した。
ぐったりとした美奈子は、ベッドに沈み込んだ。激しい倦怠感が襲ってきて、今は指一本動かすのも億劫なぐらいだ。
いづみは、美奈子の中からずるりと竿を引きずり出した。
愛液と精液とでぬらぬらになったものは、窓から入る一筋の月の光を浴びて、ヌラヌラとぬめって見えた。
「いづみちゃん……」
のろのろと手を伸ばしかけた美奈子は、ふと、その手を止めた。
今までの欲望に濡れた瞳ではなく、無機質な冷たい眼差しでいづみは、美奈子を見下ろしている。
「──ごめんね、美奈子お姉さん。あたし、人間の精気がなければ天界へは帰れないの。悪く思わないでね」
無邪気な笑みを浮かべて、いづみは低く呟いたのだった。
(H14.2.27)
(H25.8.31改稿)
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