酔いしれるキモチ

  好きだと言った。
  幼馴染のヨシミツに、恋愛の対象として好きだと告白した。
  蒼は火照る頬で、自分よりも頭一つ分背の高いヨシミツを見上げる。
  大好きな、ヨシミツ。
  幼い頃からずっと彼の後をついて回っていた蒼は、もう大分以前からヨシミツのことが好きだった。多分、物心ついた頃には既にヨシミツのことが好きだったのだと思う。幼稚園には、手を繋いで一緒に通った。小学校でも中学校でも二人は常に一緒だった。高校に入り蒼は文系、ヨシミツは体育系の選択が増えていくにつれ、一緒にいる時間は少しず減っていった。別々の大学に入った今では二人の時間は昔と比べると随分と少なくなってしまったが、それでも蒼のキモチにかわりはない。
  だからこのキモチを、告げたのだ。
  大好きで、大好きで。
  このキモチを告げずにはいられないほど、ヨシミツのことが好きになっていく自分。
  彼の一挙一動が、蒼の憧れだった。
  男らしいごつごつとした手指。筋肉のついた、だけどあちこちに小さな引っ掻き傷のある肩。潰れて、少し聴力の弱い左耳。右目の下にある傷跡は、妙なサラリーマン風の男に蒼が誘拐されかかった時に作った勝利の傷だ。どれもこれも、蒼が好きなヨシミツを形成する大切なパーツだ。
「オレ、ミッちゃんのこと、好きだよ」
  何気ない風を装って、さらりと言った。
  ヨシミツの家のベランダで。二人して、タバコとチューハイをちびりちびりとやりながらのことだった。
「ああ?  なに言ってんだよ、蒼。俺だってお前のこと好きだぜ。ちっちぇえ頃からずっと一緒だったからな、俺たち。お前が女だったら、彼女にしてぇぐらいだぜ」
  がははと笑って、ヨシミツはタバコをふかした。
「だってお前、可愛いもんな、顔」
  可愛いと言われても、不思議と嫌な気はしなかった。ヨシミツになら何を言われても気にならない。好きだから。



「酔ってるんだよ」
  と、蒼は言い訳がましく言った。
「……みたいだな。俺も、酔いが回っちまったみてぇだ」
  苦笑いして、ヨシミツも言う。
  その言葉にふと蒼がヨシミツの顔を覗き込むと、恐いぐらいに真剣な二つの眼差しがじっと自分を見つめていた。
「なぁ、キス……しても、いいか?」
  酔っているんだと、蒼の心の中で誰かが囁く。
  そうだ。
  これはきっと、自分に都合のいい夢なんだ。
  そんな風に思いながらも、蒼はこくりと頷く。
  すぐにヨシミツの顔が迫ってきて、唇を吸い上げられた。暖かくて、力強い、ヨシミツの口唇。ヨシミツの唇の感触にぼうっとなっている間に、彼の指先は蒼の肩から背をするり、するりと撫で降ろしている。
「ミッちゃん……」
  キスの合間に蒼は上擦った声で囁いた。
  蒼が着ていたランニングの裾をめくり上げると、大胆にもヨシミツの手は内側へと侵入してきた。



  優しく、肌をなぞられた。
  痩せた蒼の体躯はビクン、と震え、唇の端から小さな喘ぎ声が洩れた。
「あ……好き……」
  唇の角度が変わる度、蒼は欲情して掠れた声で囁きかける。
  ヨシミツは自分と同じ男の蒼を相手にしているというのにやはり酔いが回っているのか、次第に熱のこもった口吻へと変化していっている。
「ミッちゃん……ミッちゃん、好き……大好き……」
  はぁ、と息を吐いて、蒼は甘い声で囁く。
  唇の隙間からヨシミツの舌が差し込まれ、口腔を犯していく。
  舌を絡め合い、意識をヨシミツの手に集中すると、胸の突起をきゅっと摘み上げられるところだった。
「っ……あ…んっ」
  蒼の背が、しなる。
「ダメ……ミッちゃん……」
  ヨシミツの指は奔放で、蒼の乳首をぐるりと一周して突起をきゅっと押し込むように軽く潰した。それからざらざらとした親指の腹で何度も撫で擦り、蒼の小さな乳首を扱きあげた。



  唇が離れていく瞬間、蒼は物足りないような寂しいような気分になった。
「ミッちゃん……」
  潤んだ瞳の蒼は、じっとヨシミツを見上げている。
  ヨシミツはぺろりと口の端を舐めると、決まり悪そうに目を逸らしてチューハイをぐび、と一気に煽り飲んだ。
「──俺、お前ンこと、好きかどうかわからんわ」
  ぷはぁ、と息を吐いて、ヨシミツは言った。
「ごめんな。お前が言うような好きかどうかもわからんで、キスしちまって」
  ポリポリと頭を掻き掻き、ヨシミツは自分の正直な気持ちを告げる。
「やっぱ俺、かなり酔ってるみたいだわ。先に寝るから、お前も勝手にやれよ」
  勝手にやれ、とヨシミツは言った。いつもと何ら変わることのない、何気ない様子を装って。
  ヨシミツがベランダを後にすると、一人ぽつねんと取り残された蒼は身体の火照りを感じて苛ついたように爪を噛んだ。
  窓越しに部屋の中を覗き込むと、ヨシミツは自分の布団にごろりと横になって、早々といびきをかいている。
  仕方ないかという風に溜息を吐いて蒼は、ベランダの灰皿と空き缶をざっとまとめてビニール袋の中に入れた。ベランダの隅っこに置いてある保存ケースに、とりあえず入れておく。朝になったら台所のダストボックスに入れるのを忘れないようにしなければ。
  それから部屋に戻ると、あまり大きな音を立てないようにして窓を閉めた。
  ヨシミツの隣に敷いてある布団にころりと転がると、蒼は吸い込まれるように眠りに落ちた。
  好きだというキモチを告白することができた。
  まずはそれだけで充分だと、蒼は思ったのだった。



酔いしれるキモチ     蒼い月

(H14.8.9)
(H25.1.19改稿)



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